- 常駐=偽装請負ではない。問題は「指揮命令権」が誰にあるか
- 10項目のチェックリストで、今の案件がグレーかどうか自己診断できる
- 気づいた時は「証拠を残す→エージェントに相談→案件を変える」の順で対処
「フリーランスなのに、毎朝9時に出社して、客先の社員と同じSlackで指示を受けて、勤怠も管理されている」
これ、偽装請負かもしれません。
この記事では、フリーランス歴年目・全案件を準委任契約で受けてきた筆者が、偽装請負の見分け方と、気づいた時の具体的な対処法を実体験ベースで解説します。
企業向けの法律解説記事は山ほどありますが、フリーランス当事者の目線で書かれた記事はほぼありません。この記事がその空白を埋めます。
- そもそも偽装請負とは?フリーランスが知るべき基本
- 【チェックリスト】あなたの案件は偽装請負?10項目で判定
- フリーランスエージェント経由で偽装請負が起きる構造的理由
- 【実体験】偽装請負グレーゾーンで自分が経験したこと
- 偽装請負に気づいた時の5つのアクション
- フリーランス新法(2024年11月施行)で何が変わったか
- 偽装請負を避けるエージェント・契約形態の選び方
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:「常駐=偽装請負」ではないが、知識武装は必須
そもそも偽装請負とは?フリーランスが知るべき基本
まず偽装請負の定義を押さえておきましょう。難しく考える必要はありません。
偽装請負とは、契約上は「業務委託(準委任・請負)」なのに、実態は「労働者派遣」と同じ状態になっていることです。
フリーランスは本来、クライアントから独立した事業者です。自分の判断で仕事を進め、成果を納品する立場。しかし実態として、クライアントから直接「いつ・どこで・どうやって」を指示されているなら、それは雇用関係と変わりません。
準委任・請負・派遣の違い(比較表)
フリーランスの契約形態は主に3つ。それぞれの違いを理解しておくと、偽装請負のリスクが見えてきます。
| 項目 | 準委任契約 | 請負契約 | 労働者派遣 |
|---|---|---|---|
| 指揮命令権 | なし(自分の裁量) | なし(成果物で評価) | あり(派遣先に従う) |
| 成果物責任 | なし(善管注意義務) | あり(完成義務) | なし |
| 報酬の基準 | 稼働時間 | 成果物の完成 | 労働時間 |
| 偽装請負リスク | 中(常駐時に注意) | 高(一人請負型に注意) | —(そもそも派遣) |
| フリーランスとの相性 | ◎ | △ | ×(本来は雇用) |
準委任契約について詳しく知りたい方は、以下の記事で解説しています。
偽装請負が違法とされる理由
偽装請負は以下の法律に抵触する可能性があります。
- 労働者派遣法: 許可なく労働者派遣事業を行うことは違法(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)
- 職業安定法: 労働者供給事業の禁止に該当する可能性
- 労働基準法: 中間搾取(ピンハネ)の禁止規定に違反する可能性
偽装請負が禁止されている最大の理由は「労働者保護」です。業務委託の形をとることで、残業代・有給休暇・労災保険・社会保険といった労働者の権利が一切適用されなくなります。
【チェックリスト】あなたの案件は偽装請負?10項目で判定
ここからが本題です。以下の10項目のうち、3つ以上当てはまる場合は偽装請負の可能性があります。
厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(37号告示)をベースに、フリーランスの日常業務に落とし込みました。
指揮命令に関するチェック(最重要)
☑ ① 客先の社員から直接、作業内容の指示を受けている
これが最も重要な判断基準です。準委任契約であれば、業務の進め方は自分の裁量で決められるはず。「この機能をこの設計で、この順番で実装してください」と客先社員に指示されているなら、それは指揮命令関係であり、偽装請負のサインです。
☑ ② 出社時間・退社時間を指定されている
「9時に出社、18時まで勤務」と指定されていたら要注意。業務委託は「何時に働くか」を自分で決められるのが原則です。
☑ ③ 勤怠管理システムへの入力を求められている
客先の勤怠管理ツールに毎日打刻する運用があれば、実態は労働時間管理。業務委託なら稼働時間の「報告」はあっても「管理」はされないはずです。
拘束性に関するチェック
☑ ④ 休暇取得に「許可」が必要
有給休暇は労働者の権利です。フリーランスは休暇を自分で決められるのが前提。「来週の金曜休みたいんですけど」と「お伺い」を立てている状況なら、それは雇用関係に近い。
☑ ⑤ 他の案件を同時に受けることを制限されている
専属性の強制は偽装請負の重要な判断要素です。「うちの案件に専念してください」と言われて他の仕事ができないなら、それは実質的に雇用です。
☑ ⑥ 朝会・夕会・定例会議への参加が「義務」とされている
情報共有のための会議に「参加した方が仕事がしやすい」のと、「参加しないと怒られる」のは別の話です。
事業者性に関するチェック
☑ ⑦ 自分のPCやツールではなく、客先の設備を使わされている
独立した事業者であれば、自分の道具で仕事をするのが原則。ただし、セキュリティ上の理由で客先PCを使うケースは実務上多く、これ単体では偽装請負とは判断されにくいのが実情です。他の項目と合わせて判断してください。
☑ ⑧ 業務の進め方や手順を細かく指定されている
「設計書通りに実装してください」はOK。「この関数をこう書いて、変数名はこれにして」まで指定されるなら、それは裁量がない状態です。
その他の判断要素
☑ ⑨ 客先の人事評価・査定の対象になっている
業務委託先を「評価」する仕組みがあるなら、それは雇用管理そのものです。
☑ ⑩ 契約終了の判断がクライアント側に一方的にある
「来月で終わり」と一方的に通告される状況は、解雇に近い。2024年11月施行のフリーランス新法では、6ヶ月以上の継続取引は30日前の予告が義務化されました。
フリーランスエージェント経由で偽装請負が起きる構造的理由
「エージェントを通しているから安心」と思っていませんか。実は、エージェントのビジネスモデル自体が偽装請負を生みやすい構造になっている面があります。
商流の多重構造が生む指揮命令のねじれ
フリーランスエージェントの案件には「商流」があります。
エンド企業 → 元請けSIer → 2次請けエージェント → フリーランス
この多重構造では、フリーランスが「誰の指揮命令下にいるか」が曖昧になりやすい。契約上はエージェントとの準委任契約なのに、現場ではエンド企業の社員から直接指示を受ける。これが偽装請負の典型パターンです。
商流とマージンの関係については以下の記事で詳しく解説しています。
エージェントの営業KPIが「常駐稼働率」になっている問題
一部のエージェントでは、営業担当者のKPIが「フリーランスの稼働率」に設定されています。つまり、フリーランスをできるだけ多く常駐させることが営業の成果になる。
この構造では、営業担当者にとっては「偽装請負かもしれないグレーな案件」でも、稼働率を上げるために紹介するインセンティブが生まれます。
エージェントが「味方」とは限らないという現実は、知っておくべきです。
【実体験】偽装請負グレーゾーンで自分が経験したこと
ここからは筆者の実体験です。
常駐案件で感じた「これ社員と同じでは?」の違和感
フリーランスになって最初の数年間は常駐案件が中心でした。朝会に出て、客先のSlackで指示を受けて、日報を書く。正社員のメンバーと全く同じ動き方をしていました。
当時は「常駐ってこういうものだろう」と思っていました。でも今振り返ると、いくつかの案件は偽装請負のグレーゾーンだったと感じます。
特に印象に残っているのは、ある案件で参画3週間後に平日15時間・土日返上の稼働を求められた経験。仕様未確定のまま実装を進め、手戻りが発生してもスケジュールは据え置き。体調を崩してPMに報告しても、翌月も同様のスケジュールが組まれました。
準委任契約を盾にした交渉の実例
転機は、準委任契約の法的な意味を正しく理解した時でした。
準委任契約には「完成義務がない」という重要な特徴があります。成果物の完成を約束するのではなく、善管注意義務(一定の注意を払って業務を遂行する義務)を負うだけです。
この知識があるだけで、「それは契約上おかしくないか?」と冷静に判断できるようになります。知識がなかった頃の自分は、無理な要求もすべて「フリーランスだから仕方ない」と受け入れていました。
この経験は、後に県税事務所との交渉でも活きました。「準委任契約は請負ではないから個人事業税の課税対象外である」と主張し、発注書・契約書・入金履歴を全て提出して2年がかりで非課税を勝ち取りました。
契約形態を正しく理解することは、偽装請負対策だけでなく、税務面でも自分を守る武器になります。
偽装請負に気づいた時の5つのアクション
偽装請負の疑いがある場合、以下の順番で対処することをおすすめします。
① まず契約書を確認する
最初にやるべきは、契約書の内容と実態のズレを確認すること。
チェックポイント:
- 契約形態は「準委任」か「請負」か
- 指揮命令権に関する記載があるか
- 就業場所・就業時間の指定があるか
- 契約解除条件はどうなっているか
② 証拠を残す(メール・Slack・議事録)
偽装請負の相談をする際、「証拠」があるかどうかで対応が大きく変わります。
残すべき証拠:
- クライアントからの直接指示メール・Slackメッセージのスクリーンショット
- 出社時間を指定されたやりとりの記録
- 休暇を「拒否」されたやりとり
- 勤怠管理画面のスクリーンショット
「言った言わない」では何も動きません。記録をとっておくことが最も重要です。
③ エージェント担当者に相談する
証拠が揃ったら、まずエージェントの担当者に相談します。
伝え方のポイント:
- 「偽装請負だ!」と攻撃的に言わない
- 「契約内容と実態にズレがあるので確認したい」という姿勢で
- 具体的な事例(いつ・誰が・どんな指示をしたか)を示す
まともなエージェントであれば、クライアントに是正を求めてくれます。対応してくれないエージェントは、エージェント自体を変えるべきです。
④ フリーランス・トラブル110番に相談する
エージェントが対応してくれない場合、外部の相談窓口を利用します。
フリーランス・トラブル110番 - 電話: 0120-532-110(無料) - 受付: 平日9:30〜16:30 - 運営: 第二東京弁護士会(厚生労働省委託事業) - 弁護士に無料で相談可能
その他の相談先:
- 総合労働相談コーナー(各都道府県の労働局内)
- 労働条件相談ほっとライン: 0120-811-610(平日17:00〜22:00、土日祝9:00〜21:00)
⑤ 案件を変える(最終手段だが最も確実)
相談しても改善されない場合、案件を変えるのが最も確実な解決策です。
「声を上げたら仕事を失うかも」という恐怖は理解できます。しかし、偽装請負の状態で働き続けることは、本来受けるべき労働者としての保護を放棄していることと同じです。
案件を変える際は、複数のエージェントに登録しておくと選択肢が広がります。
フリーランス新法(2024年11月施行)で何が変わったか
2024年11月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称: フリーランス新法)が施行されました。偽装請負対策にも間接的に影響があります。
契約条件の書面明示義務
発注者は、業務内容・報酬額・支払期日などの契約条件を書面またはメールで明示する義務が課されました。
これにより、「口約束で案件に入ったら話が違った」というトラブルが法的に対処しやすくなりました。契約書がない状態で常駐させること自体が、法律違反の可能性があります。
解除予告30日ルール
6ヶ月以上の継続取引では、契約終了の30日前に予告する義務があります。
これまでは「来月で終了です」と突然告げられても法的に争いにくかったのが、新法により一定の保護が加わりました。偽装請負を指摘した場合の報復的な契約打ち切りに対する抑止力にもなります。
偽装請負の抑止効果
フリーランス新法は偽装請負を直接規定していませんが、以下の点で間接的に抑止効果があります。
- 契約内容が明確化されることで、「実態とのズレ」が可視化されやすくなる
- 不当な減額・買いたたきが禁止され、立場の弱さを利用した不利な条件に歯止め
- 違反時は公正取引委員会・厚生労働省が助言→勧告→命令と段階的に対応し、命令違反には50万円以下の罰金
偽装請負を避けるエージェント・契約形態の選び方
偽装請負に遭わないための事前対策です。エージェント選びと契約形態の選び方で、リスクを大幅に下げられます。
準委任契約を選ぶ(請負より安全な理由)
自分は年間、全案件を準委任契約で受けています。
準委任契約は「指揮命令権がない」ことが法的に明確なので、偽装請負の指摘がしやすい。請負契約の場合、「成果物の品質管理」と称して細かい作業指示を出されるケースがあり、偽装請負との線引きが曖昧になりがちです。
商流が浅いエージェントを選ぶ
商流が浅い(エンド企業と直接取引している)エージェントほど、契約関係と現場の実態が一致しやすく、偽装請負リスクが低くなります。
マージン率を公開しているエージェントは商流が浅い傾向があります。
フルリモート案件なら構造的にリスクが低い
フルリモート案件は、物理的に常駐しない分、偽装請負の構造が生まれにくいのが特徴です。
出社時間の指定、オフィスの設備利用、対面での勤怠管理といった偽装請負の典型パターンが、リモートワークでは構造的に発生しにくくなります。
よくある質問(FAQ)
Q. 常駐案件は全て偽装請負ですか?
いいえ。常駐すること自体は違法ではありません。問題は「常駐先のクライアントが直接指揮命令をしているか」です。エージェントや自社の管理者を通じて業務指示が行われていれば、常駐でも適法です。
Q. 偽装請負だと分かっていても、案件を続けた方が得ですか?
短期的にはそう見えるかもしれません。しかし、偽装請負の状態は労働者としての保護(残業代・労災・社会保険)を受けられないリスクと隣り合わせです。長期的に見れば、適正な契約関係のもとで働く方が安全です。
Q. 偽装請負を通報したら、自分にペナルティはありますか?
法的にはありません。むしろ、フリーランス新法では報復的な契約打ち切りに対する一定の抑止力が設けられています。ただし、現実的にはクライアントとの関係が悪化する可能性はあるため、まずはエージェント経由での相談をおすすめします。
Q. フリーランス・トラブル110番に相談すると、大事になりますか?
いきなり訴訟になることはありません。まずは弁護士が状況を聞いて、解決策を一緒に考えてくれます。相談したことがクライアントやエージェントに通知されることもありません。
まとめ:「常駐=偽装請負」ではないが、知識武装は必須
フリーランスの常駐案件と偽装請負について、実体験ベースで解説しました。
改めてポイントを整理します。
- 常駐=偽装請負ではない。 問題は指揮命令権が誰にあるか
- チェックリスト10項目で、今の案件のリスクを自己診断する
- 気づいた時は、証拠を残す→エージェントに相談→案件を変えるの順で対処
- 準委任契約 + 商流の浅いエージェント + フルリモートで構造的にリスクを下げる
- フリーランス新法で契約条件の明示義務・解除予告義務が加わり、保護は強化されている
「おかしい」と感じたら、それは大抵おかしいです。この記事のチェックリストと対処法が、あなたの判断材料になれば幸いです。
今日からできるアクション:
- 今の案件をチェックリスト10項目で自己診断する
- 契約書の写しを手元に保管する
- フリーランス・トラブル110番(0120-532-110)の番号を控えておく
※本記事は法律の一般的な解説であり、個別の法的判断を示すものではありません。具体的な法的問題については弁護士への相談をおすすめします。